地域福祉とは

私たちの暮らす地域を住みやすくするために、身近にある課題に住民自身が気づき、仲間や関係者と課題解決に向けて動き始めること。

福祉について関心を持つことから始まり、地域活動の参加を通じて「主体性」を育む過程が地域福祉の推進に欠くことができません。

その動機が課題意識だけでは、「義務感」が強くなってしまう。

地域を構成する子どもから高齢者までが、主体性を持って地域づくりを楽しくすることが地域福祉を進める力に変わる。

 

今回の特集では、地域づくりの過程を実践しているお二人から話を伺った。

「どうせ自分なんて・・・と他者と比較し、マイナス評価している子たちって多いし、私自身も学生の頃、自信がなく同じ感情を持っていたんですよ。勉強している理由がわからないし、やる気も起きない時期があった。」

そう話すのは寒河江高等学校の養護教諭、阿部千穂先生。

ふわっとした雰囲気の裏に、秘めた熱意がうかがえる。2年前に、小国高校から寒河江高校に赴任してきた。

なんらかの理由で、保健室利用や保健室登校の生徒が、地域の方との出会い等をきっかけにメンタルヘルスが改善され、学校生活に復帰した場面を、幾度となく目の当たりにしてきた経験をもつ。

 

寒河江高校の保健室で、放課後に取り組んでいるピアサポート活動。生徒の興味関心や視野を広げ、限定された人間関係につまずきを感じる生徒が少なくなることを狙いとしている。方法として、学校生活では出会えない地域の大人を招き、生徒が気軽に交流できる場を提供している。

その「根っこ」となっているのが阿部先生自身の経験だ。

「学生の頃、学校では自信が持てなかったけど、アルバイト先で接客を極めたんです。すると、バイト先では自信をもってキラキラ輝く自分に気づいて。関わる人や身を置く場所で自分の役割が変わるんだ、って。」

とある日、ピアサポート活動に混ぜていただくため、保健室にお邪魔した。

保健室に向かう廊下には、ホワイトボードに柔らかい字と似顔絵で「助産師さん・養護教諭・看護師さんとの座談会をします」と書かれている。ゲストは助産師経験のある現役の養護教諭の方。

今回は進路についての一人の生徒の悩みから、この企画を決めたそう。

「高校生はお金がない、移動手段も限られている。憧れとなるような大人との出会いの最初の一歩はコーディネートしていいのかなって。」

放課後、生徒たちが集まってきた。まず3人、続いて2人。少し遅れて、ドアの前で、そっと覗き込んでいる子たちに、「おいで、おいで!」と声をかけると入ってきた。

みんなで自己紹介をし、雰囲気が和んだところでゲストにパスが行く。生徒たちがとても熱心に耳を傾けて、メモをとっている姿が印象的だった。

 

高校生のストレスマネジメントと、仲間同士の支え合いを目的として始めたのがピアサポート活動だったという。

阿部先生は、高校生活のルーティンでは先生以外の大人と出会う機会が少ないことから、「素敵な大人と出会わせたい。」と地域とつながる形にしている。

その理由は単純に、「子供たちにイキイキしてほしいから。」

いろんな子がいるけど、「なんで生きていかなきゃいけないんだろう。」から、「明日、こんなことしたい。」とか「やりたいことで溢れていて、時間が間に合わない!」に変わったら、こっちがワクワクする!と微笑んだ。

 

さて、阿部先生のピアサポート活動を含め、地域と学校のつながりを支えているのが牛木力先生(東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科専任講師)。いろいろなことを話したくなるような、おおらかさをまとっている。

彼は、島根県の高校で魅力化コーディネーターとして教員とは異なる立場から、高校生の教育に携わってきた経験をもつ。

現在は、大学で「地域の人と一緒にまちづくりを進めていく方法」を教えながら、高校生と地域をつなげる活動も行っている。

寒河江高校では、学校運営協議会委員として、学校運営にも参画する方だ。

 

 

牛木先生の経歴も興味深い。

大学の医学部を辞め、「まちづくり」をやりたいと、アメリカの大学で都市計画を学んだ。

アメリカで悶々と日々を過ごす中で履修した「都市計画と教育」が今の活動につながっているという。そこでは「まちを作る側の人」と、学校や教育に関わる人たちがあまりにも断絶しているアメリカ社会の現状があって、その犠牲になっているのは子供たちということを知る。

「アメリカは特に格差が大きく、郵便番号で何年後かの年収がわかるくらい、どこに住んでいるかとか、どこに生まれるか、が全てを決めてしまう。」

在籍していた大学で、まちづくりをしてきた側の責任を考えながら、学校の先生、行政、学生が一体となって地域づくりをすすめることになる。

「地域で一番荒れた学校をフィールドとして、まちに関わるみんなで、地域を変えていこうとするプロジェクト。これをきっかけに、日常では関われない一見怖そうなお兄さんたちが僕に懐いたり(笑)。まちを良くするためのアクションを通じて、関係性や環境が変わっていくのを肌で感じました。日本でも地域でこういう取り組みやりたいなと思ったのが今の原点。」

そんな二人の出会いは、5年ほど前に遡る。牛木先生が島根県から外部アドバイザーの立場で小国高校に関わっていたことが出会いだった。

牛木先生いわく、

「その頃から、阿部先生は養護教諭の中で日本一面白いんじゃないか。」と言われていたそう。

「阿部先生の面白さは養護教諭の枠にとどまらず、生徒たちが持つやる気や、明日学校に行きたいと思う気持ちに加えて、地域の中で学校を変えていきたいという視点を持っているところ。保健室がそのエンジンとなり、学校と地域をつないでいこうとしているところ。」と話す。

保健室から、地域へと目を向けることの効果について、牛木先生はこう捉えている。

学校がしっくりこない子にとっては、学校と家庭という限定的なコミュニティの中だけで自分の価値を決めてしまう。でも地域に出ていろんな人と関わることで、実は「意欲があった」とか「頼りできる計画性のある人だ」とか。

いつもと違う立場が認められることや、学校とは違う価値で評価されることは、子どもの成長に大きくつながる。

大人でも一つの空間にいると煮詰まるときがあるけど、他のコミュニティがあると居場所は無くならない、と話す。

そもそも学校の中で起きている出来事や課題を、そこだけ解決しようとせずに、別の分野や人とのかけ合わせを生み出していくことで、解決に繋がることも多いそう。

「僕もそうだったけど、『何を言われるか』よりも、『誰が言う』が重要だと思うんです。

『この本読んだらいいよ』って親から言われても読まないけど、とても尊敬している人が、『これ面白いんだよ』って言った瞬間に読むとか。」

だから、素敵な大人に繋げることに徹する方がうまくいくんです、と。

2人が感じる今の子どもたちのこと。

自分で何かを選択し、意思を持ってやることに自信がない子が多い、と口を揃えた。

例えば、ポスターを作るのにも、「ここ何色でいいですか?」と全部聞かないと、色を塗られない。子ども達が意見を言える機会が少ないと、自分の意思を表現できなくなる。

阿部先生は

「大人の答えが全部正しいわけじゃない。大人が間違っていて、あなたが合っていることもあると思うから、考えていることを教えて!」と生徒の声を引き出すことに徹した。

意見を言える環境づくりを積み重ね、自ら考え物事を進めていく体験によって、確認しなくても行動できる子が増えたという。

牛木先生によると

「アメリカでは小さい頃から自分の服のコーディネートも全部決める。サブウェイ(具材やパンの種類を選択するサンドイッチのお店)で、チーズ、ハム、パンなど種類が多くて、僕は選び疲れてしまうけど、アメリカでは『卵はこのくらいの焼き加減で』とか、全部注文するのが当たり前。小さなことだけど自己決定をする環境が備わっているんだよね。」

「僕も中学生の頃は生徒会を始め、様々な分野で頑張っていたけど、高校生になってからそれが格好悪いと思いはじめて。兄も不登校だったのもあり、目立つことで『学校に行けなくなったらどうしよう』と不安になった。だから高校生活は地味にやり過ごそうという感覚でした。できることも好きなことも、言うと恥ずかしいし、隠してばっかりみたいな。

だからこそ、わかる部分もあって、多くの子は自分からは積極的に参加しないけど、『ちょっとやってみない?』って言われたら、断る理由もないから参加するんです。」

この「ちょっとやってみない?」のハードルを低くすることが参加を促す第一歩だという。

「主体性」の引き出し方

方法を教えて、背中を一押しすると、自発的な行動に繋がっていくのをたくさん見てきた二人。

「例えば、焚火をやりたい、と思ったら動画を見れば、やらなくても癒されるので体験した気になる。でも、結局はツルツルの世界の中の出来事で、それに感覚は伴わない。

僕も知り合いのおじいちゃんが山菜取りに連れていってくれて『こうやってやるんだ。』とか、『虫に刺されてかゆい。』とか。触れて感じることは自分ゴトの始まり。」

参加するまでは腰が重くても「意外と楽しかった」と感じれば、「今度また行こう」というように、主体性へと繋がっていく。

社会では、「主体性をもつこと」が重要視されているが、主体性は「楽しい!」と感じるときに生まれてくるんだ、と目を合わせる。

「雰囲気ってとても大事で、何かやっている子が『楽しそう、イキイキしてるなぁ』感じると、友達も参加するようになってくるんですよ。

ただ、地域の担い手になりなさい、と言われてもやろうと思わないし、指示されたことは自分のこととして受け止められないから動かない。」

「最初のやる気が出る瞬間」は、地域の中に出て、何かを実践して、その体験を咀嚼していく、その過程に含まれているという。

その中で、地域の大人が、横の関係で「あなたがいてくれてよかった。」と言うだけで、前向きな気持ちが作られていく。

誰でもかわいがられたい。大事に思われていると感じることは、大きな力にかわる。

これからを生きるための力

「経理からアプリ開発に転職するなど、キャリアシフトも珍しくない。違う分野でも、経験を強みに活躍する時代。いろんな分野で何かを生み出すことが求められる気がしています。AIで物事が済んでしまう反面、複数の分野を掛け合わせて物事を考える視点は大事。

『学校っておもしろくないよね』、『学校のこういう仕組みがだめなんだ』と環境や仕組みのせいではなく、『どうしたら面白くできるか』という起業家精神で挑めると、人生がもっと楽しくなるよね!」と、締めくくった。

ピアサポート活動を企画する理由を尋ねたとき、「なにより、私自身が楽しいんです。」と、

印象的だった阿部先生の言葉。

役割や使命感での取り組みではなく、一緒に楽しむという姿勢が、魅力的な企画になり生徒や大人を惹きつけているのだろう。

私たち社会福祉協議会でも、必要性よりも「自分ゴト」として参加できるよう「楽しさ、参加しやすさ」「人との出会い」を意識して、事業を企画しています。

それは、困っている方や課題解決に限った支援だけでは、本質的な解決にはならないと考えているため。目指すのは、子どもから高齢者まで人と人をつなぎ、属性を問わず全ての方が関わりやすい地域づくりの土壌をつくることなのです。

 

阿部先生

「教員として働いている寒河江高校O.Bの先生方からは、寒河江高校と寒河江市への愛をひしひしと感じています。だから、

生徒の一人ひとりが「こんなことやりたいな」と口に出せる環境や、自分のことに自信が持てるような、日本一の魅力的な高校にしていきたい」

 

プロフィール※記載の内容は全て2023年7月取材当時のものになります

牛木力(うしき ちから)

新潟県生まれ。

カリフォルニア大学バークレー校環境デザイン学部卒業。2016年より、島根県立津和野高校において、行政、地域住民、学校の先生が協働して作る形の地域探求型総合学習を企画。

2020年より東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科専任講師として、学生を指導する傍ら、県内外を問わず地域づくりに関わっている。

 

 

阿部千穂(あべ ちほ)

新庄市生まれ。2022年、寒河江高等学校の養護教諭として小国高校より赴任。2019年に小国高校で開催した全国高等学校小規模校サミットでは、地域と連携し、生徒の力を引き出すことで大きな成果を残した。